先延ばし克服プラン、マシュマロ実験でおなじみの方法とは?
先の記事では「ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか」(ピアーズ・スティール(著)、発売日2012/7/2)のなかから、先延ばしを引き起こす要因についてご紹介しました。
今回は、先延ばしを克服するための戦略、先延ばしの3タイプ別に提示された行動プランについてです。
先の記事でもご紹介した先延ばしの要因ごとにわけられた3タイプの特性は、架空の人物設定で説明されています。
エディー:
どうせ失敗すると決めつけるタイプ(期待)。どうせまた失敗するだろうと、結果に対する期待が小さく、目標達成不能と決めつける。
バレリー:
課題が退屈でたまらないタイプ(価値)。課題に対して価値を感じられない(課題に対して感じる楽しさのことを、研究者は「価値」と呼ぶ)。
トム:
目の前の誘惑に勝てないタイプ(時間)。行動の決定要因は、時間(タイミング)。すぐに手に入るご褒美をはるかに魅力的だと感じる、衝動に負けやすい人間。
そして、この3つのタイプそれぞれにあわせた先延ばし克服のための、13の行動プランが提示されています。
この実践的なプランはボリューム満点の内容ですので、“先延ばしの本質そのもの”といわれるトムのタイプに向けた戦略にフォーカスしてご紹介したいと思います。
目の前の誘惑に勝てない、『すぐに手に入るご褒美をはるかに魅力的だと感じる、衝動に負けやすい人間』がトムのタイプです。
この「誘惑に勝てない」衝動性を克服するための行動プランが3つ紹介されています。
すなわち、自分はどのような誘惑に負けてしまうのかを知っておくこと。そして、誘惑の感じ方を変えることと、適切な環境を整えること、です。その行動プランとは以下のとおりとなっています。
プレコミットメント戦略:
- 自己コントロール能力が完璧でないと認識する。自分はどのような誘惑に負けやすいのかを知る。
- 退路を断って自分を縛る。長期目標の妨げになるほかの選択肢を排除する。誘惑を遠ざける。
- 危険な欲求を早めに満たす。意志の力を発揮したければ、その前に基本的な欲求を満たしておくこと。
- 「非スケジュール」テクニック。仕事や義務の予定を記す前に、楽しみや遊びの予定をスケジュール表に書き込むことで日々を退屈に感じなくなることもある。
- ペナルティーの設定。誘惑に負けたら不愉快なことが起きるようにあらかじめ設定しておき、誘惑の魅力を弱める。誘惑に負けたらお金を払うという賭けは大半のケースで有効な方法。
注意コントロール戦略
先延ばしを防ぐためには、課題から気が散る原因にうまく対処する必要があり、以下の3種類の方法がある。
誘惑の対象を連想させるキュー(きっかけ)のイメージを悪くする、キューを取り除く、望ましい行動の背中を押すキューと差し替える方法。
- 潜在感作法と呼ばれるテクニックは、誘惑の対象に悪いイメージを抱くように自分を仕向け、誘惑に屈すると不快な結果になると想像する方法。
- 誘惑の感じ方を変える方法として、誘惑の原因になるものを抽象的・象徴的に考えるよう努めることで、頭のなかで誘惑を弱められる。重要なのは、誘惑の対象をなるべく具体的に認識しないようにすること。
- 誘惑の対象を想起させるキューをできるだけ排除する。適切な環境を整える方法で、刺激コントロールと呼ばれるテクニック。どのような誘惑に自分が負けやすいかを洗い出し、その誘惑を刺激するキューを一掃し、それにより生まれた空きを別のキューで埋めると効果的。
なお、この注意コントロールの方法は、1960年代後半に心理学者のウォルター・ミシェルがはじめた実験において用いられた手法。子どもたちの意思力をテストするマシュマロを使った実験で、子どもたちの自己コントロール能力が3倍に強まった手法が注意コントロールの方法。
このマシュマロ実験は、どこかで耳にしたことがあるというかたが多くいらっしゃるのではないかと思うのですが、いかがでしょう?
ゴールを設定する
- 具体的にゴールを設定する。なにを成し遂げるべきかを明確にして、なにを基準にゴールを定めるかを決める。課題に費やす時間(=投入量)を基準にするのか、それとも成し遂げた成果(=成果量)を基準にするのか。どちらも有効な方法。
- 短期のサブゴールを設定する。長期のゴールとともに、超短期のミニゴールを設定することで、やる気をくじく最初の壁を突破する。
- ゴールに向けた行動を習慣化する
同じ場所、同じ時間に、その行動をとると決める。予測可能性を高めることが習慣化を強化する。自分の取るべき行動を選択する機会が少なければ少ないほど、先延ばしに陥る可能性は減る。そのため意図的に行動を習慣化することで、意志力が弱まったり、誘惑が多い環境においても、長期のゴールに向けて歩むことができる。
自己コントロール力を鍛える
トムのタイプのように、『楽しみを遅らせるのが苦手な人が忍耐力の強化を目指す場合、最初のうちはその取り組みがすぐに恩恵をもたらすようにしないと、うまくいかない』といいます。
なぜなら、『自己コントロールを高めるためのテクニックを実践するには、そもそもある程度の自己コントロール能力が必要』だからなのですね。
というわけで、先延ばしの3つのタイプのうち、先延ばしの本質ともいわれているトムのタイプにフォーカスした、克服方法でした。
先延ばし癖を克服する道のりは、なかなかに険しいですね。
今回、自分としてとくに重要だと思ったのは、誘惑の対象を抽象的・象徴的に捉える、ということでした。
ゴールを明確にして、それに向かって歩み続けるためには、さまざまなテクニックを用いて誘惑に負けないこと。
実践あるのみですね!
最後になりますが、著者が考案したという「先延ばし方程式」を用いて、『先延ばし癖の持ち主にとって非常に手ごわい落とし穴である「意思と行動のギャップ」も、この方程式で説明できる』とのこと。
その「先延ばし方程式」が知りたいというかたや、トム以外のタイプの戦略も気になるというかたは、本書「ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか」を手に取ってじっくりチェックしてみていただければと思います。